(3)新たな課題と設立の意義
冒頭に紹介したように私たちの活動の理念とその方向性とは、「共生」という思想のもとに、「共助」という考え方を立ち上げて、それを実践していくことにあります。定款で3条の【目的】条文には、「社会保障に関する問題の解決を必要とする人々とともに、共助の視点に立って、関係機関と連携しながら適切な解決手段を検討するなど解決への糸口を見出す活動を行うことにより、人間性あふれる、住みやすい社会の創造に寄与することを目的とする」とあります。
その具体的、実践的な活動を①情報発信活動、②教育・宣伝活動、③相談活動,④ネットワーク活動の4本柱に据えています。この4本柱に即しながらこれからのあったかサポートの課題と意義について考えてみたいと思います。
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情報発信活動
情報発信活動は、季刊「あったか情報」の発行が中心です。我々の活動の現状や方向性について紙面を通じて理解していただく大切なツールです。ホームページは意図して開かない限り見ることができませんが、読者は新聞と同様にページをめくればおおよその内容を把握し、興味のある個所を読みます。他方でHPは読者が何か目的をもって検索し、メールアドレスを通じてアクセスできますから、例えば「授業で使える、働く前に知っておきたい基礎知識、教科書版」など私たちの活動に関心のある方々との接点が容易に繋がります。セミナーや講演録の冊子の発行は、「労働や社会保障」に係る我々の思想の検証や政策的スタンスの確立を計る手立てとなり、その普及の意義は大きいものがあります。
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教育・宣伝活動
教育・宣伝活動は、最も力を入れてきた活動の一つです。とりわけ「労働関連法教育」を意図した「出前授業」の開催については、近年、個別労働トラブルの増加や若者の早期離職対策から厚労省や文科省など行政機関、学校の教員、インディーズ系の労働組合、弁護士会、社会保険労務士会、司法書士会なども関心を高めています。それでも、組織的、計画的に取り組んだ我々あったかサポートの出前授業は、その対象範囲が、夜間定時制高校の教師に始まり全日制高校、夜間定時制や通信制高校の生徒、大学生や専門学校生など対象を幅広くかつたくさんの箇所で行ってきました。そうした経験からは、この種の教育活動の意義に次の2点を加えたいと思います。
一つには、このような教育活動の意義は、就職活動や離職にともなう、若者自身が抱く「自分が勉強しなかったから」「自分が社会に溶け込めなかったから」「自分が弱かったから」とする根強い「自己責任論」、「自尊感情の喪失感」からの解放にあります。
二つ目には、キャリア教育という名の「就職活動」へのアンチテーゼを提案することにあります。非正規雇用が拡大し、新規学卒者の就職率低下など若者の雇用機会が狭められ、失業が社会問題化すればするほど、コミュニケーション能力など財界や企業の求める人材に応えられる能力が若者に求められています。ましてや大学は「学問の府」ではありえません。就職というゴールを目指したものが就活ですが、それがこれまで培った勉強方法では達成できないことは、若者には知らされていません。人は自分自身に可能性がないと思うと努力をしないものです。努力しようという気持ちや意欲がわくためには、自分を認めてくれる、励ましてくれる人や仲間のいる社会でなければなりません。お互いに支え合う絆をつくることの大切さを若者に伝えたいと思います。
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相談活動
これまでのこの種の活動は、行政機関においても労働トラブルと年金や医療、福祉などの生活相談に分離されて対応されてきましたが、一人で複数の課題を抱えている方々の相談が増えているのが特徴です。いま内閣府のモデル事業として行われているパーソナル・サポート事業とは、雇用と福祉との連携を意図し、制度横断的な問題解決に向けた支援方法の見直しです。その意味では、あったかサポート発足当初から問題解決のために意図した行政機関やNPOなど民間団体、各種専門家などとのネットワーク活動の形成の意義は評価されても良いとは言えます。しかしその後の「失業」や「貧困」などを通じて、人間関係が絶たれ、自分のアイデンティティーというべき居場所を失い、その結果「自尊心」、「自己肯定感」、「社会的有用性」など「社会からの排除」が進んでいる現状の中にあっては、就労にとどまらない「教育」や「職業訓練」、「居場所づくり」、「役割づくり」などを通じた何らかの社会参加の可能性を拡げることをも視野に入れなければなりません。
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ネットワーク活動
NPO活動のネットワーク活動は、自らの利益を実現するためにあるものではありません。「求めよ、さらば与えられん」ではありません。「与えよ、与えられん」というスタンスで他者や他団体との関わりを大切にしたいと思います。幸い、私たちの周りには、各専門士業をはじめ多士済々の経験や能力を持った方々が集って頂いています。すなわち、同業者仲間の利益集団ではないところが強みです。会社の経営者も参加していれば中には労働組合も参加しています。今後とも会員とその周辺の諸団体が困ったことや悩み事が生じたときにお互いに情報を交換できる中継機関、中間組織の役割を果たしたいと思います。